素描過程 Drawing Step

  ここに紹介するDrawing Stepは浦崎武彦氏による「西洋絵画技法ゼミ」の内容です。ものの見方、捉え方の基本を学べ、今でも大切にしているものです。上手く描こうとするのではなく、論理的に捉えてゆこうとするものです。かつてのヨーロッパにあった「美術アカデミー」でもきっとこのような素晴らしい教育がなされていたのだろうと思います。

Drawing Step

  明暗法  ギリシャのアリストテレスは「すべての色は、光と闇、白と黒の間から生じる。」と考え、多彩な色の世界は光と影の混色によるものと考えていました。  イタリア語で「キアロスクーロ」と言われるこの言葉は哲学用語として「善と悪との間で社会的及び個人的に格闘する人間の在りようを表す言葉」と捉えていたのです。描画する時に対象物の形態を観察して、対象物に対して当たる光が明部と暗部を醸し出す微妙な変化を捉えて立体感を表すのが目的です。画面構成上の効果を狙って用いる方法で、明確に段階化された明度で考え構成することで優れた作品に繋がるステップになります。取り組みの段階によっては背景を中間調子のグレーの用紙や着色した支持体を用います。その背景の中間色を基準にして、明度に沿って、対象の形の明るい段階を白のトーンで、暗い段階を黒のトーンで表現してゆくのです。

鉛筆デッサン

3種類の鉛筆による6段階明暗の取り組み。
 描き方の特徴 線描(ハッチング)/hatching  線の集積を、濃淡の階調を作るために使用し、重なる部分は暗部へと向かっていきます。白色絵具を加えたハッチングは浮きだす効果となり、明部へと向かう立体表現の一方法となります。テンペラ絵具は、見かけの乾燥が速く、油彩のような指先でぼかす技法などが無理なことと、彩色層の上へ更なる彩色を行う場合、上層部のリタッチで未乾燥の下層が崩れることが多いことからハッチングや点描は不可欠な技法でした。  ここでは、それに慣れるためにもハッチングを使用します。描画材料は鉛筆です。隙間のある独特なリズム感のある重なりの繰り返しによって美しい階調を作り出して明暗の微妙な段階を捉える訓練をしてゆきます。

木炭とチョークによる併用デッサン

 「木炭とコンテによる併用デッサン」 木炭と2種類のコンテ鉛筆による6段階明暗の取り組み
16世紀以降、画家の間で行われたデッサン法で定着性は無い木炭と石炭を含む粘土質の岩板を棒状にしたチョークを併用して描く。

キアロスクーロ・デッサン

「キアロスクーロ・デッサン」(イタリア語の明暗の意味) 木炭、コンテ鉛筆、ソフトパステル白による7段階明暗表
レオナルド・ダ・ヴィンチによって始められた技法で、その後多くの画家によって試みられた技法。
このデッサン法は灰色の地を中間トーンとし、暗部を黒(木炭、チョーク)で描き込み、明部を白(パステル、チョーク)で描き、単色で明暗の調子のみで描く。キアロスクーロは彩色技法へ発展移行する基礎。

トロワ・デッサン

トロワ・デッサン 色彩表
そのカバー (意図を表しています。)
「トロワ・デッサン」(フランス語の数字の3の意味) 木炭、コンテ鉛筆白、サンギーヌ、ソフトパステル白、サンギーヌによる段階
フランドルの画家ルーベンスを源流とし、18世紀までトロワクレヨン(三色デッサン)と呼ばれた。
従来の寒色(木炭、チョーク)、明色(コンテ、パステルの白)に暖色が1つ入るだけで様々な表現が可能になる。明色の上に暗色(グレイズ)、暗色の上に明色(スカンブル)の描法は透明水彩、テンペラ、油彩など彩色へ移行する重要なステップで基礎となる。特に人体表現に欠かせない技法でルーベンス、ワトー、フラゴナールへと受け継がれ本格的な一ジャンルとして確立された技法。

ハイトニング(白色浮き出し)

これは黒い紙の上に、白の色鉛筆での混合技法などで使われる白色浮き出しーハイトニングーを想定した段階表

メタル・ポイント

「メタル・ポイント」 別名スティルスとも呼び、
金属の細い棒の先をちょうど鉛筆の芯の先のように尖らせた筆記具です。一番良く使われたのは12、3世紀の頃から17世紀前半頃までと思われます。今日の鉛筆の前身に相当する黒鉛小片が普及し始めると急速に廃れてしまい、一番良く知られ、遺例もあるのは銀を使ったものです。日本では銀筆、銀尖筆などども訳していますが、最近では英語読みのシルバーポイントの名で通用しています。
古典絵画1

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ワニス Varnish

 ワニスの語源 

 ワニスの語源は諸説ありますが、古くは紀元前3世紀エジプトで、戦争の勝利を祈願するために、美しい金髪の女性ベレニス(Berenice)の髪をヴィーナスの神に捧げた故事に因んで、その後琥珀やコパールなど黄金色の美しい化石樹脂を「ベレニス」と形容するようになったという説があり、それが変化して”Vernish”となり現在に至っています。  古代エジプト時代、王家のミイラを作る際、ミルラ「没薬」やフランキンセンス「乳香」アロエ、シーダー油などが死体に塗布されたことが確かめられています。それらはミイラの防腐作用のためだけではなく、硬化させて形を永遠に保つためでもあり、また、呪術的・香料的な意味も含まれていました。

ワニスの目的

ワニスの最も基本的な目的は、絵画・工芸品を空気中の湿度や温度から守ることでした。また、塗膜の厚みによる屈折率の変化によって表面に装飾的な輝きを与え、時にはワニスで表面の凹凸を埋め、画面に平面性を与えるために塗られたこともありました。また、テンペラにおいては、ワニスを塗ることで顔料本来の濡れ色を発揮させ、画面の明度対比の調整をしたのです。

ワニスの構成 -油と樹脂の混合-

現在あらゆる用途に用いられているワニスは、作るうえで最も大切なのは油と樹脂の選択と比率です。油分が多いワニスは木の大きな動きに順応するためより順応性があるために、よくアウトドアで使われるのを意図されており、柔軟性や順応性が必要とされています。油分が少ないワニスは、極度の木の動きはない室内において、堅固な塗装が要求されるため被膜は固く、しかも脆くなります。樹脂の役割を鉄筋コンクリートに例えると、樹脂分が「鉄骨」で、ゆっくり固まる乾性油が「コンクリート」です。鉄だけでは曲がってしまい、コンクリートだけでは割れてしまいます。その両方が備わってこそ、強固な画面が形成されるのです。

 油絵で使用されるワニスは煮込まれて硬化したあるいは加減して半硬化した油に樹脂を加えて出来ます。天然樹脂を使用したワニスには油(リンシードオイル、テレピン油など)に樹脂を溶解させたオイルワニス(油性ワニス)とエチルアルコール(酒精)で溶解したアルコールワニス(酒精ワニス)とに大きく分けることができます。19世紀に入ってからは、天然樹脂と合成樹脂を混合したものも作られました。

樹脂 Resin

仕上げ用ワニス(タブロー

 ワニスをかける目的は、画面の光沢調整と保護の二つです。描きあがった油彩画面にはたいてい光沢の部分的なムラがあります。そこにワニスをかけると光沢が統一されます。また、作品はつねに大気中の汚れや画面に有害なガスの影響にさらされます。大気中の汚れはワニスの表面に吸着され、画面の変色劣化を防ぎ、絵画そのものは汚されません。ワニス表面が汚れてきたら、溶剤で層を除去し、新しく塗り直すと、描きたての画面が復活します。また、塗布後は作品の通気性を遮り、絵画層の乾燥が滞るので、作品完成後、最低半年は乾燥期間をおいてから塗布します。どうしても完成間もない時期に塗布したい場合、テレピンで薄めるか、後述の加筆用ニスを仮引きとして塗ります。

加筆用ワニス(ルツーセ)

油絵具の皮膜の上に絵具を重ねると、弾かれてしまってうまくのらない時や、乾燥前と後では、絵具の色艶が微妙に変化するから、新しい色を塗るときに色が狂ってしまう時に、画面に加筆用ワニス(ルツーセ)を塗布し、画面を濡らすことで作業しやすくなります。ルツーセは通常、若干のダンマルとテレピンから作られており、タブローの非常に薄いものです。1度塗布であれば、その薄い層は空気を通すので、仮の保護ワニスとしても活用できます。

描画ワニス=油性メディウム=調合画用液

描画ワニス=油性メディウム=調合画用液

 描画の際に使用するメディウムを「調合画用液」ともいいます。絵具の粘度、光沢、乾燥速度などを調整するために、主に乾性油、揮発油、樹脂を適切に配合して絵具に混ぜて塗ります。その効果は絵具の練り調子やノビをよくすると共に顔料と支持体の定着を強め、油絵特有の艶を与えます。基本的には揮発性油と混ぜながら使用し、仕上げに近づくにつれ油の比率を高めてゆきます。その割合は制作段階によっても変わり、画家によってそれぞれ異なります。このワニスによって油彩画最大の特徴であるGlazing効果を生み出すことができるのです。

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